ジュズツナギ

第 36 回

「私の考えるJAZZ 」

大前チズル
( ピアニスト)

自分のルーツミュージックといえば「軍艦マーチ」
なぜなら実家の裏がパチンコ屋だったから
そして隣家がスナックで薄い壁越しに当時のヒットソングが
大音量で漏れてきていた、今思うとそんな環境が
人格形成に作用してまがりなりにも音楽でシノイデるのかしら?

幼少期のいつ頃だったか
ラジオからウッドベースの音が流れてきて
なぜだか私はフッとその音に魂をうばわれた

ウッドベースに魅せられて
その楽器が使われている音楽、いわゆるJAZZをはじめることになる
当時、巷ではフュージョンが流行って学生バンドで
シンセやらが多用されだしていた時代
私は全然そういうところに属していなくて
足がかりとしてバイトしながらハモンドオルガンを
学習し、チラチラとジャムセッションに顔を出すようになって
数年後にはピアノトリオでライブハウスで演奏するようになった

とまあ自分史はこれくらいで
私の考えるJAZZについて、稚拙ながら書きとめておくとしよう
暫くおつきあいの程を・・

90年代になって、イギリス経由のクラブ音楽が輸入され
京都のMETROでは「COOL TO KOOL」でKYOTO JAZZ MASSIVE,
MONDGROSSOという台風の目が活躍しはじめる頃
DJが音楽を素材として取り扱い、サンプリングやカットアンドペースト、
それによって再生産された
新しいダンスミュージックとしてのJAZZが若い子達の間で流行した

その頃、お洒落な雑貨屋さんやカフェなどで、自分のライブの
フライヤーを配りにいって内容を説明すると
「いまJAZZに夢中なんですよ」ていう若者が増えて、なんか
居心地の悪い気持ちをかみしめていた
そうなのだ、自分が現場でライブで演奏していた音楽と
巷の若者の指すJAZZという呼び名の音楽にはかなりの
隔たりがあったのだ
現場のミュージシャンは即興、いわゆるアドリブを中心に
捕らえているが、流行っているJAZZとはあくまで中心は
踊れる、ということ、ここが決定的に違っていた
そしてDJがスムーズに繋げてゆく為のテンポ、キックの
音圧、すべてが現場で演奏してるミュージシャンには
いまいちピンとこない
といっても多分私の世代が境界に居たわけで
踊れるJAZZから聴いてきた世代は難なく溶け込めただろうたぶん
(今のエゴラッピンなんてモロそういう音ですもんね)

そんな訳で、DJが演奏者と向き合って何か作品を作ろう、という
試みは最初はかなりトライアンドエラーと隔たりの連続だった。
向こうはいともたやすくいろんな素材を混ぜ合わせる技をターンテーブルで
やってのけるから、「こんなの簡単だろ」的に無茶な注文されたり
扱われ方も「素材」として、ループやサンプリングに取り込まれて行く
中には「ライブ演奏には興味ナシ」などと言い切るDJもいて、やるせなかったり・・
お互い違う言語でそれぞれが好き勝手に主張してやまない時期が
あった気がする。

そんな葛藤の日々に一筋の光が見えた
1997年の「花椿」という資生堂発行の月刊誌に高橋健太郎さんの
コラムが掲載されてて
デトロイトテクノの雄、カール・クレイグが自らリミックスした
インナーゾーンオーケストラ名義の「BUG IN THE BASSBIN」には
生のドラムとベースが起用され、
しかも元サン・ラ・オーケストラのメンバーが演奏している、
という記事を発見した時は私の中に「電球マーク」が!
テクノという、生々しさとか空気感とかいったものとは無縁であったはずの音楽が
生で一発録り、されて熱烈に支持された、
ということが90年代後半の音楽シーンで起こり、
エレクトリックVSアコースティックとか
デジタルVSアナログという論争が無効になる地平線が
見えてきたような予告めいた文章だった
同じ頃にMAWが「ニューヨリカン・ソウル」をリリース、そこにも打ち込みではなく
故ティト・プエンテ、エディ・パルミエリといった大御所をフィーチャーし、
生楽器にこだわって作り上げた作品があった
これらの現象が来るべき21世紀の音楽シーンを予言しているようで
かなり励まされた。

ちょっと職人的な話になるが「ループもの」を生で演奏するコツ、
みたいなのも数年かかって体得した。
機械が醸し出す独特のクセ、をどう再現するか、音符の置き方、
延ばし方、アクセントなどなど。
クラブという場所ではやはりDJが主役でレコードをプレイして
観客はそっちの方が馴れているので、ヘタをするとライブが始まると
体が止まってしまう、みたいな辛酸なときを経てきた経験値だ。

生演奏でも隔たりなく踊ることの出来る空間を創りだす、のに先のアルバムは
自分のバイブルとなる作品群だった

何よりDJと演奏家、お互いがリスペクトしあわなくては秀逸な作品は生まれない
私が参加しているDJ YOKU氏率いるA Hundred Birdsオーケストラユニットは
その基本が出来ている今後が楽しみなプロジェクトでもある。
今ようやくDJと演奏家の垣根が取り払われてJAZZというコトバの
真の意味を実践するべく
束縛から開放された地平線の向こう側に行ける気がしているのだ。


ジュズツナギ
つぎの方は…
ゴトウゆうぞう
エンターティナー
大前チズル
ピアニスト
森扇背
ベーシスト

第37回次のジュズツナギは,
京都祇園下河原から一度も引越ししていない!という
生粋の京都人、大西ユカリと新世界のベーシスト、森たくみセンセです


大前チズル
ピアニスト、、オーガナイザー、グラフィック&ウエブデザインも少々
高度経済成長と共に育った世代、気がつくと毎日PCの前に座ってる今日この頃
夜は祇園のピアノ・バーで演奏する今では希少なバンドマンの末裔
空間をいかに美しくしつらえるか?ジョージア・オキーフの格言を日々修行中
現在参加しているDJ YOKU率いるハウスオーケストラユニットA Hundred Birdsで
待望のファーストフルアルバム「Fly From The Tree」(GUT)/ForLife Musicが
2005年2月9日にリリースされる
大前チズルのホームページ http://www.chizuru-bis.com

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