ジュズツナギ

第 29 回

「 虚の世界 」

北園竜彦
( Toy Box )

京都で音楽と出逢った。自ら作詞・作曲を手掛け、歌うようになってから5、6年が過ぎている。 ここまで音楽活動に没頭し続ける理由は、間違いなく"京都"という町にある。

その一つが鴨川。学生時代、天気の良い日などは昼間から河川敷の芝生に寝そべり、 "自分はこのままでよいのだろうか?"など、この年頃特有の感情を、空高く流れてゆく雲のように漂わせていた。 現在でも作曲に努めるときなどは鴨川で一人、ギターを掻き鳴らす。 鴨川は、音楽活動に取り組む者、絵を描く者、散歩する者、昼寝する者、 釣りをする者、現実逃避をする者、愛を育む者達、行き場の見つからない過剰なエネルギーを発散させる者、 住み込んでしまう者、などなど様々な人間が集う場所だ。賑わいを見せる繁華街とは異なり、 各人の持つ感情が鴨川の水のようにさらさらと、僕の傍らを流れていく。風、草、水に触れ、 心が穏やかになる一方で、五感が研ぎ澄まされていくのが分かる。僕から言わせれば、 ここで芸術に目覚めない方がどうかしている。僕の場合は"音楽・歌う"だったに過ぎない。

そしてもう一つ、僕と音楽を強く結びつけてくれるものが京都にある。 意外に思う人も多いかもしれないが、それは"庭園"である。 ライブをする、ステージという世界と、お寺などにある庭園という世界は、 現実とは隔てられた空間にあるという意味では同等なのである。 庭園を築き上げる材料は、花・草木・水・石といったごく普通に身の回りにある、 素朴なモノである。しかし、それらの配置は、人の手によって造られた現実には在りえない配置であって、 不自然であるとも言える。 四季折々に様々な表情をみせる庭園を観て、美しいと感じるのは、森羅万象が絶妙に置かれることによって構築される、 "虚の世界"に引き込まれてしまうからだ。自然がつまらないと言っているのではない。野原に咲く花を眺めることと、 活けられた花を観ることとは違うと言いたいのだ。そして後者の美しさ、つまり"虚の世界への誘い"こそが、 アーティストを目指す僕にとって必要不可欠であり、憧れなのだ。ホリー・コールの歌声に酔いしれ、 トム・ヨークのパフォーマンスに興奮する僕と、青蓮院門跡の夜間拝観で、 お抹茶を頂戴しながら庭園を眺めて呆けている僕は、表現型は全く異なるが、等しく虚の世界に肩までどっぷり浸っているのだ。 "ライブ"という言葉の意味を未だ理解していないが、ジャンルに関係なく、観る人が声を上げて興奮したり、 しんみりと聞き惚れたり出来るのは、ボーカル、ギター、ベース、ドラムが奏でる音の集まりが パワーアンプリファイされて歌い手の"コトバ"を一つの景色として表現し、虚の世界を魅せているからなのだ。

僕は京都で音楽と出逢った。まだまだ"実"ばかりが目立ち、"虚の世界"を掴めていないように思う。京都という町で学ぶべきことは多い。


ジュズツナギ
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高橋 茂
ラビットコーヒー
北園 竜彦
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中村ゆきまさ
ミュージシャン

第30回は、ひとりでここまでやってしまうのか!?初めて彼のライブを見た時の衝撃は未だ消えず。 唸るギブソン!怒濤のグルーブ!命の叫び!間違いなく京都で最も強い弾き語り、中村ゆきまさの登場です。


北園竜彦
現在、ToyBoxというバンドで活動中。
北園竜彦とToyBoxに関する詳細は、全て寝人が知っている
http://nebito.org/
まで

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