ジュズツナギ

第 54 回

「 境界/中心 」

東賢次郎
( つれづれ )

京都生まれなわけでも京都の学校に通ったこともなく、関西とはいえ出身は兵庫の西の方で、大学から37歳で退職するまではずっと東京、なのになぜか学生の頃から京都には音楽のつながりが広がっていってよく遊びに来ていたし、東京ドーム公演のみだったストーンズ初来日時には東京の僕の部屋が京都の人たちの合宿所と化していた。

仕事をやめるにあたり、もうこれからどこに住んでもいい、ということになった時には迷わず京都に決めた(一瞬だけ沖縄とかも考えたけど)。今となってはむしろ京都に住むために仕事をやめたようなような気もする。旅行が好きなので仕事辞めたらいろいろ旅行しようと思っていたのに、京都の居心地がいいせいかほとんど行ってなくて、旅先で気に入った場所に住みついたような感じ。

音楽をやる環境として京都はとてもいいなあと思いながらずっと見ていた。老舗のライブハウスが出演者にノルマを課さずにチャージバックを必ず出してくれるから後につづいた店にもそれがかなり引き継がれていて、他の大都市でこんな環境はほとんど考えられないのではないか。それが可能になっている地盤としては、大学が多くてどこも個性的、というのがやはり大きいのだろう。85年に初めて京大軽音のボックスに遊びに行った時の、レベルの高さや音がしっくり鳴っている感じは忘れ難い。

東京でライブハウスに行ってこういういいライブがいくつも見られる確率はほとんどなかった。数が多過ぎていいものも埋もれてしまうし、プロっぽくても型通りだったり流行りというか何かのマネで個性的でないのが多い。音楽なんて日本においては所詮ある年齢で離れていくものであり若気のいたりで終わってしまうところが多分にあるが、その中でやりつづけていける数少ない場が京都にはあるように思う。みんな我が道をいっている求道者タイプで、じっくりと熟成させている感じがする。まあマイ・ペースなだけなんだろうけど。

音楽と直接の関係はないが、住んでみて京都は境目だと感じる。古来日本は冬に雪にうもれる国とそうでない国のふたつに分けることができ、大和から北上してその境界線上にあたる所に中心を遷すことで、これからその両方統治するという意思表示をしたのが平安遷都だったのではないか、と勝手に思っている(坂上田村麻呂の「蝦夷征伐」とやらがはじまったのはそのすぐ後だったりする)が、その境を雪国の側にほんのわずかに越えただけで、急に生活もいろいろ不便にもなるけれど、かわりに物件としては一気に安くなるので、僕もそこに住んでいくことになりそう。でも街中までもすぐだし、東京や大阪ほど人や情報量が多くないのが幸いして、個々に好きなことに没入できる非常にいい場所だと思います。奥が深くて、まだ住みだして3年半の新参者に語れることなどほとんどありませんが。


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東賢次郎
つれづれ
ワダ・ザ・ヴァンパイア!
VAMPIRE!

ジュズツナギ第55回は、ワダ・ザ・ヴァンパイア!1979年から現在まで(結成28年目!!)京都で活動をつづけている最良のニューウェーブ・バンド、VAMPIRE!のGuitar & Vocal。最近はソロでの活動も多く、数え切れないほどのエフェクターとサンプラーを並べ、ひとりでギターを2つぶらさげてアンプを4台鳴らしつつ雄叫びを上げながら映像まで操るライブを展開する。ピンク・ローターなど大人のおもちゃを使ったアダルトな奏法を数々生み出している、知性あふれるド変態。


東賢次郎
出版社を退職した日に東京から京都に移り住み、音のM字開脚を追求するバンド・オブ・ジョイトイ「つれづれ」で、パン・ディレイを酷使するギタリストとして地道に活動中。たまに文筆業もさらに地道にこなす。猫科の生き物と球団が好き。ライブのスケジュールはブログにて。

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