ジュズツナギ

第 21 回

「始まりの場所は」

長谷川一志
(ラヴラヴスパーク)

 京都に住んでもう十年になる。転校を何回かしているので、京都に住んでる時間が一番長い。これからも暫くは住むだろうし、 ひょっとしたらずっと住むのかもしれない。でも、なんでこんなに長いこと住んでるのだろう。夏の暑さや冬の寒さにはほとほと参ってしまうし、 風邪をひくこともしょっちゅうだ。でも、結局この街に住んでいるし、他所から来た人達に、あるいは自分が他所の土地に行った時に 京都を弁護したり勧めてたりしてる。そのわけのいくつかは以前にこのオトサタに寄稿した時にちらっと書いたのだけど、でもなんでだろう。 やっぱり面白い場所が多かったんだろうね。

 最初は、大学内にあったフリースペースに入り浸るようになった。僕らがいつも居たその場所は、昼間は喫茶店まがいのこともやっていた。 展覧会や朗読会、演劇、上映会にライヴ、週替わりで何かが行なわれていた。いつも誰かが居た。絵を描いたり、コーヒー片手に本を読んだり。 僕はもっぱらレコードを聴いていた。そこにはスライ&ファミリーストーンのパネルがあったし、ヴェルヴェッツやキンクスやデビッド・ボウイや ヴァン・モリソンやコルトレーンやモンクやミンガスやジャックスやミカバンドやとにかくたくさんの御機嫌なレコードがあった。 みんなの持ち寄るお気に入りの一枚から会話が始まり、色々な人と知り合った。年齢もやってることも立場も違う人ばかりだったけど、 みんな面白いことがしたくって、あそこに行けば面白い、そんな場所が作りたかった。そんな風に思ってる人はあちこちに居るようで、 どっかの学生寮やらどっかのアトリエなどそこここで週末限定のカフェが開かれていた。そういうとこに夜ごと日ごと出かけて行っては話に食らいついて。

 で、話を戻すと、僕がいつもいたその場所は自治会とつながりが深く、新歓期には週替わりでイベントを行なっていて、 その最大のものがその建物の中庭で開かれたライヴだった。四方を建物に囲まれたその中庭で何か音を発すると、音という音が四方の壁にあたって反響の連鎖を起こし、 なんともいえぬ良い音場ができた。見上げると四角に切り抜かれた空。

 準備は朝からだった。芝居に使う平台を車で運んで中庭に敷いていく。 工事現場で使う足場を借りてきてそのまわりに組む。工事現場は大学内のあちこちにあった。それを自治会の名前を出して借りるわけ(もちろん無料で)。 で、その足場に照明を吊って。アンプもマイクもミキサーもスピーカーも、知り合いのを借り集めて繋ぐ。マイクは声しか拾わない。 マイクもミキサーのチャンネルも足りないから。楽器のバランスはアンプのつまみと力加減で調節。最小限のセット。 リハをやってる間に大鍋の料理の数々ができてくる。おでん、カレー、豚汁、焼き鳥などなど。日本酒やウィスキー、ワインなどの瓶が並びBarの準備も万端、 マッカリもやってきた。拾ってきておいた木切れに火をつけて、たき火の開始。星が輝きだす中、ライヴの開始。頭上や体のまわりを音がぐるぐる廻り、 バチバチと音をたてながら燃える炎を見て気は昂り、てんで各々のリズムで踊り、マッカリが脳をすっかり麻痺させ、 倒れて仰向けに寝転がった視線の先には綺麗な星空で。

 同じ頃に見た西部講堂、野外テントでの渋さ知らズや、 一升瓶のどんどん廻ってきた吉田寮も衝撃だったし楽しかったけど、やはり僕の原点はあの中庭なのです。あそこに居たから今でも唄ってるんだろうなあと。 そんで、今でもあんないい音の場所は無いと思う。

 以上は僕の話で、多分、誰にでも同じようにそれぞれの面白い場所があるでしょう。 ただ京都がちょっと違うのは、他所よりも場所作りのパイオニア、ベテランが多いってことで、そういう先達がいたからこそできることはあるわけで、 その恩恵は多大であり、敬意を払わねばとまあそう思うこの頃です。で、我こそはと思う皆さんは敬意を払いつつも先達にお酒でも呑んで頂いて、 そのノウハウをまんまと引き出してさらに面白い場所を作って下さい。



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ジュズツナギ第22回は全力オナニーズ、ロカコンボのドラマーにして、京都ロックのディープ地帯、左京区は元田中にあるRock Bar ローズガーデンの店長、そしてRock A GoGo パラダイス企画の総帥、シノヤンです。シノヤンのドラムはグッドフィーリン、サイコーなのですが、もし生まれ変わるとしたら、シノヤンのスネアにだけはなりたくありません。また今度、美味い店教えて下さい。


長谷川一志
ラヴラヴスパークというので唄っています。96年に結成以来様々なメンバーが入れ替わり立ち替わりし、今はギター担当のギターさんと酒担当の酒さんとのトリオです。そろそろ人間とやりたい気もします。思い付いた時に行なう不定期唄心イベント「しょぼくれミュージック」も結構な回数になってきましたが、ライヴ後の呑みも楽しく拾得で行なっておりますのでどうか御贔屓に。

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