死屍累々なのである。
恐ろしいほどに死屍累々なのである。
幻の錬金術を求めて彷徨う、魔界道のそこかしこには、美しき獣たちの群れが、無残な屍となって横たわっているのである。
そしてそれは、まるでいつか夢の中で見た、雨の中、咲き乱れる華の様でもある。
俺様がまだ10歳ぐらいだった1970年頃、ロックミュージシャンである事が、最高にカッコイイ行き方に見えた。
京都の街を颯爽と歩く、ベルボトムのジーンズを穿き、ベルベットのジャケットを纏った少し年上の長髪で細見の男たちからは、退廃の甘き香りがした。
まあ、今、よく考えてみれば、みんなミュージシャンだった訳じゃなかったんだろうけど(笑い)。
勿論、まだガキだった俺様も、親に強請って買って貰ったハーフのジーンズを穿き、チャリンコに跨って、その頃よくロックコンサートをやっていた京大西部講堂や円山野外音楽堂の周りをうろうろ徘徊し、ロックな気分って奴に浸って悦に入っていたものである。
そう、俺様はロックにやられてしまったのだ!
そして俺様とロックの出会いは、最初から”死の香り”がしていた。
ジム・モリスン、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリクス。
俺様がロックにイカレ、取り憑かれたかの様に聴き狂い始めた頃、入れ違う様に、相次いで逝ってしまった、お気に入りのミュージシャン達の名前である。
勿論、彼等が死んだから好きになった訳じゃない。
俺様が親から貰った決して多くはない小遣いを握り締め、吟味に吟味を重ね、彼らのアルバムを手に入れた時点では、彼らはみんなまだ生きていた訳だしね。
しかし、結局それ以降、俺様がロックを聴き、プレイする事に嵌まり込んで行けば行く程”ロックミュージシャンの死に様”のイメージは、俺様のロック観に大きな影響を与え続けたのであった。
訃報は続く。
グラムロックが産み落とした聖なる呪術師、マーク・ボラン。
ドラムキットを蹴り倒す事さえ、グルーブに感じさせてくれたキース・ムーン。
凡百のパンクロッカー達の中から、唯一唯一、神話の世界の住人となったシド・ヴィシャス。
その深く沈み込む様な陰鬱な歌声が、俺様にとって最高のロックヴォイスだったレイン・ステイリー。
俺様が実際にライブを観たアーティストの中で、掛け値なしのNO.1、史上最強のロケン・ローラー、スティーブ・ベーター。
まるで自分達の音楽表現の最終楽章を飾るのは”死”でしかないかの如くなのである。
そして俺様は彼等の死の様に、ロックの理想形を感じていた。
そう、いつの時代でも若者から見れば、殉教者は気高く美しく輝いて見えるものなのだ。実際、今思えば不謹慎な話だけど、俺様にとって最高のロックアイドルであったジョニー・サンダースが亡くなった時なんか、「長生きしすぎやったな〜、ちょっと死ぬのが遅すぎるで…」なんで、ロック好きの友人と熱く語り合ったものだ。
いやはや、我ながらまったく失礼な男なのであった。
そして今、自分自身の年齢が、当時憧れていたアーティスト達の享年を軒並み上回り、ロックバンドをスタートさした、十代の頃の自分の目から見れば、凄く大人に見えた二十代を遥かに過ぎ、とても信用出来ない様に思えた三十代をも超えて、遂に、何の話も通じない様な気さえしていた四十代に突入、もう今更、いつくたばっても、とても早死にとは言えない年齢になってしまった俺様。
今や、いくら熱く”滅びの美学”を語っても、まったくの笑い話、笑止千万である。
そう、昔の俺様ならば「今頃くたばっても手遅れなんだよ!」と、はき棄てる様に言うところなのだ。
唾もかけるぞ!
ぺっぺ!ぺっぺ!だ。
自分で言うのも変な話なのだが、この年齢まで生きている自分が、本当に不思議で仕方がない。
別に、生きている事を恥じている訳じゃないのだけれど。
まあ結局は、この十年程の間に、身近な親しい数人の友人達が、相次いで、まるでロックに身を捧ぐかの如く、若くして逝ってしまい、いやおうなく”死”というものを、リアルな現実として受け入れなければならなくなった時、そのあまりにも圧倒的な”実存としての死”の存在感が、無邪気に”ロックの死に様”に憧れていた俺様のケツを蹴飛ばし、目を醒まさせ、ここまで生かして来てくれた様な気がするのだ。
あ、でもこれって自己弁護だな、すいません、カッコ付けすぎました。
実際は”あれ?また今日も生き延びちゃったよ”って言うのが本当のところなのかもね(笑い)。
で、京都だ。
嬉しい事に、この街には今でも”ロック”が溢れている。
ゆったりと、まったりと、唯我独尊にはぐくまれてきた極上の”ロック”で、街はいつもほろ酔い加減なのである。
街のそこかしこには”ロック”の香りが漂い、伝説の地、京大西部講堂や、日本のライブハウスの始祖、拾得、その拾得の一年後に生まれた磔磔など、日本のロック史の生き証人たちは”老いてなお盛ん”(笑い)、そしていにしてのロック喫茶がそのままタイムスリップしてしまった飲み屋では、ロックにイカレタ魑魅魍魎が、夜毎に集い、祝杯を上げる、まさにここは、日本における”ロックの聖地”とでも呼びたい街なのだ。
そして、この京都の街でロックに目覚め、ロックに溺れ、時には愛すべき奴らに置いてきぼりを食らいながらも、ロックが大好きなまま生きて来た俺様。
これからも、この京都の街で、ロックな出来事、ロックな奴等との出会いが俺様を待っていることは間違いない。
え、何故そんな事が判るのかって?アハハハ、決まってるじゃねーか!
ここはロケン・ロー魔界都市京都なんだぜ!!
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