ジュズツナギ

第 9 回

「 日本の夏、京都の夏 」

横須賀拓

横須賀拓
(PAT detective)

 連日の暑さ、たまりませんね。ベランダの植木に水をやり忘れて3日目のこと。思 えば、3日前までは青々としていたはずの(名前の分からぬ)その植木が、気付けば 茶色く変色しているではありませんか。さらに生と死ならば、間違い無く死に近い面 持ちの植木に思わずビックリ水を注ぎましたが、あれから彼は復活する兆しも無く、 生命力の強い雑草だけが顔を出しました。都会の片隅のとあるベランダで砂漠化する 植木を目の当たりにし、連日の水不足について真剣に考えようと思いたったある日、 事務所のポストに見るも恐ろしい紙切れが一枚。それは金十万円の請求金額が書かれ た水道料金の明細書でした。一瞬僕の脳裏に毎夜庭で行水している事務所のY君の姿 が過りましたが、それにしても金額が大きすぎます。ふとその紙きれの下の方を見る と《漏水の恐れあり。至急連絡されたし》の文字。そうです、これはY君の行水の仕 業では無く、まぎれも無い地下漏水だったのです。地下を走る水道管に空いた穴から、 2ヶ月間蛇口が開きっぱなしと同じことをしていたのです。この水不足の折、何とし た悪行でしょう。しかしこれは誰も攻めることも出来ません。罪悪感と支払わねばな らない金額への脱力感で僕が夏バテになったことは言うまでもありません。

 生まれ故郷仙台は、夏も多雨な地域で最高気温も平均25℃前後という過ごしやすい 土地でした。先日仙台へ取材の仕事で訪れた友人T君が、「なんと涼しくて良い所」 と絶賛してましたが、同時に「あんなに涼しいのに地元の人が海に行きたいだの、プー ルで泳ぎたいだの言うのが不思議」と首を傾げていました。ふと思えば僕も住んでい た頃は20℃を超えるとT-シャツを着て(全然寒いのに)海へ山へと遊びに出かけ短い 夏を満喫していたなぁと懐かしくなったものです。

 京都に移り住んで間もなく10年。この間に京都の夏を満喫したことがあったでしょ うか。盆地特有のうだる暑さに辟易しながら、冷房のよく効いた室内で涼し気な音楽 とアイスコーヒーとビールを愛し過ごした10年だった気がしてなりません。無いもの への欲求なのか、僕のレコード棚には爽やかな(仮想的)夏を演出する音楽ばかりが 揃っていました。この夏もサカモト教授のジョビンのカヴァー集や友人に作ってもらっ たハワイアンAORコンピばかり聴いています。

 少しだけ、外に出てみようかと思った、夏の日。京都にて。


ジュズツナギ
つぎの方は…
松山禎弘
ロマンザ
横須賀拓
PAT detective
堀部篤史
恵文社

第10回は、独自の編集眼で腕を振う恵文社スタッフ堀部君を紹介。彼の目に止まった 本、音楽、雑貨が一同に揃った店内は飽きることなく、日々更新中。課外活動として のDJや9月発売の雑誌の編集仕事など、その多才っぷりと一貫した「人生=編集」能 力には感服です。また一緒に何かしましょう。

横須賀拓
横須賀拓
かといってあまり外には出ていません。でもサマーソニックへAIRとチボマッ トとベックを見に行きます。AIRのクアトロにも行きます。そして目下、桂離宮へ行くのが一番の愉しみ。仕事もちゃんとしてます。映画『カラビニエ』&『コミック・ストリップ・ヒーロー』 (関西は今秋公開予定)のヴィジュアル見て下さい。
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