ジュズツナギ

第 39 回

「 夜鳴きそばと耳男(仮) 」

佐藤訪米
(ラーメン&映画製作プロダクションMIMIOX代表)

「ジミヘンの流れるラーメン屋も珍しいですね」と言われた事があるが、薬師丸ひろ子がかかる時もある。ラーメン屋にコルトレーンはちと洒落てんのか?モリコーネではダサいかはよく分からないが、そんなよく分からないラーメン屋がこの頃のもっぱらの職場だ。

以前、店が暇な時、テレビでやってた映画「タイタニック」をなじみ客のI君と男二人で仕方なく見ていた。ちなみに昔一度見ていて、今更そんな気分でもないのに、山場のシーンであの感動的なテーマが流れ出すと、私の涙腺が反応を始める。みっともないので、煙草が目にしみた振りをして質問してみた。これはその曲自体の持つフレーズの力技なのか、或いは単なる刷り込みと条件反射による作用なのか。スコセッシ曰く「音楽はタイムマシーン、一瞬にして観る者をその時代へと連れて行ってくれる」との事。例えばストーンズの曲であればその時代へ、という具合に記憶を巡らすひとつのスイッチてな訳か。

そういえば昔、地下鉄の駅の処でノイズの大会を催して、えらい事になった覚えがある。いわゆるノイズ・ミュージックのライヴに加え、ノイズの映画もやって延々と爆音を鳴らしていたら、会場のスピーカーを壊してしまった。何十万もの弁償になるぞという場面だったが、さいわい善い人のおかげで助かった。

知恩院のミッドナイト念仏に行ったら、山門の上で、薄暗い中まるでシャレコウベのよに並ぶ木魚を打ち鳴らす人々、蝋燭の灯りで浮かびあがる巨大な龍の天井画。いやおうがなく木魚を叩きながら念仏を唱え始めた。「南無阿弥陀なんまいだあ南無阿弥陀なんまいだあ」次第にのめり込んできて、ふと気付くと連れ合いが隣で念仏を唱えている。聖子ちゃんの歌が得意な彼女の念仏は、やはり微妙にシャープかフラットがかかっていて、しかし軽やかに「なんまいだあ だいじょうぶだあ」と立体的に天井へと昇ってゆく。その日は確かしらふだったと思うのだが。

夢は人によってカラーだとか白黒とか、無声だったり、人によっては臭いまでついてたりもするそうだが、やっぱり音楽つきの奴もいるのか。自分はもっぱらモノクロ・サイレント系だったりするのだが、やはり古いタイプの人間なのだろうか。

また、連れ合いとは宴席で和田弘とマヒナスターズの「お座敷小唄」をデユエットしたことがあったが、仲居のおばちゃんには大うけやったのに、身内には不評で、自分の浅はかさを思い知ったのだ。

音楽はノイズ、人の隙間に入り込む、融和と分断。

この間、夜中にびっくりドンキーにコーヒーをしばきにいったら、高校生みたいなのが山盛りいて、やかましいなと思っていたら、なぜか店のBGMが日本各地の民謡特集で、なんとなく楽しくなってきた。

音楽に侵食される日常。街はもちろん自宅から職場まであらゆる場所がノイズで溢れている。たまには静寂のノイズを感じたい。次回作はD橋の殺人事件を発端に、ラーメン屋"天下統一"を舞台にパンクバンド・大文字ドッグスターズvs人間ドッグスの対決を中心に考え中。隣のカラオケスナックから酔払いのおっさんの「六甲おろし」がきこえてくる。そろそろ次の曲をかけないと。ふとラーメン屋に見合うノイズを思う。やっぱりスープをズズ、ズズー、それから麺をズルズルズルー。これが好いか嫌いかは人それぞれだが、でも一番分かりやすい気がする。


ジュズツナギ
つぎの方は…
AYA
ラブハンター熱い肌
佐藤訪米
MIMIOX代表
なるせ京子
なるせ女剣劇団

第40回、次のジュズツナギは、なるせ女剣劇団のなるせ京子さんです。
この間、久しぶりに彼女たちのライブを見に行きました。
やっぱりおひねり、いやチャンバラっていいもんですね。


佐藤訪米
90年代に「京極真珠」などの映画を発表する。その後、ラーメン屋「祗園みみお」を開業。 現在はラーメン&映画製作プロダクションMIMIOX代表。
最新作は耳中といって正式には「みみおの中華喰って愛を叫ぶ(仮)」という短編。

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