ジュズツナギ

第 34 回

「あるベース弾きの戯言」

DUNCAN 林
( ベーシスト・シンガー)

熟達する。

絵師さんの筆遣い、大工さんのかんながけ、料理人さんの目分量、などなど。
僕の場合は楽器や声です。
と言いましても、僕が熟達しているわけは無くて今も途上なのですが、少しわかってきた気がします。

一つの作業に集中する。
継続時間が累積してくるとその作業の中に、最初には見えなかった些細なことが見え出して、しかもそれが最終的にとても重要なポイントであることがわかる。

これとは別に先人の知恵、というものもやはり上と同じく、理屈後回しで「とにかくこうせよ」と言われ、続けて行くうちになぜそうすると良いのか、その理由がわかって来る。

ときにはその時点で、自分の個性には合わなかったり、作業効率から考えてあまり必要ない事だ、というのが理解できる時もあります。
そんな時は遠慮せずに止めちゃうのですが。(笑)

仕上ったものの個性と、そのもの自体の善し悪し、また作者の善し悪しは、密接に関連していますが、別ものだ、というのもあながち間違いではない、と思います。

音楽という、善し悪しより個性が先行して評価されかねないものに携わって、もう四半世紀を越えてしまいました。

未だに、熟達からはほど遠いところにいるのが何とも辛いですが、何もかもひっくるめて「個性」と開きなおってしまうにはまだ早いようにも思います。
音楽には特に、それが許される寛容さと隣り合わせに深い落し穴もあり、なかなかに恐ろしいのですが。(汗)

'70年代のブルーズ=京都という図式に、幸か不幸か乗り遅れた僕がたどった道筋は、

「ハードロック→プログレ→ウエストコースト→フュージョン→ブラック全般」

という回りくどいものでした。
しかしおかげで、いわゆる「ブルーズ馬鹿」になってしまえずに、かえって良かったのかも知れません。

とりわけ古いR&Bからモータウン、フィリーソウル、一連のファンクグループには魅かれましたね〜。

この状態でアリヨさん(有吉須美人:ブルーズピアニスト、現シカゴ在住)と出合い、アリヨズシャッフルに在籍することになります。

ブルーズをやるのにも彼は、ショーという概念を持ってステージングを考えている。
これは衝撃でした。
ブルーズはやりゃあいい、と思ってましたから。(爆)

今考えたら当り前のことなんですけどね。

そしてアリヨさんを通じてのValerie Welintonとの出会い。
彼女には、優れたシンガーの伴奏、サポートがいかに楽しく、興味深くまた奥深いものであるかを、言葉ではなくその声で、その歌で教えてくれました。

この頃から僕の右手中指が上がらなくなってきます。
これはベーシストにとって致命的です。
ピチカート奏法に関しては、右手中指と人差指を交互に使い、演奏するのが定石です。
これが出来ない。

バイク事故の後遺症を潜在的に持ったまま、そうとう無理な姿勢と、緊張から来る力の入った状態でプレイを続けていた、というのがその理由でしょう。
指にいく神経が、鎖骨の上にできた衝撃軟骨に圧迫されているようです。
今現在も中指は、ほとんど役に立たない状態が続いています。

一時期はギターやヴォーカルに転向しようか、それとも音楽自体をすっぱり止めてしまおうかと、ずいぶん悩みました。

が、アポヤンドという奏法に「ヒント」が残されていたのです。
クラシックやフラメンコギターをかじった方はご存知でしょうが、弦をはじいた指をとなりの弦に当てて止める、という奏法です。
当たって止まった指は、その弦をすぐに弾くことが可能なのです。
これを逆手に取って、16分音符のゴーストノート(音程にならない音。プツッという感じですね)などが欲しいときは、となりの弦から弾き始めるとそれが可能になる。

これを組み合わせて行くと、人差指1本でもけっこうなバリエーションが拡がります。
猛練習しましたね〜。

しかしこの奏法も万能ではなく、同じ弦を連打は出来ないので、間に合わないときはしかたなくピックを使いますが。

悩みながらも生き残る道を模索していたのが、我ながらちゃっかりしてます。(汗)

そしてそしてStaple Singers。
前に出るだけで震えが来るような方々と、同じステージに立てる喜び。

ですが「へ?」と思うぐらいフレンドリーな人たちで、末っ子のMavisなんかはノリがもう関西のおばちゃん。
このひと、Princeにゲストで呼ばれて共演などしている、ものすごい人なのですが語尾が「やってんでぇ〜」「やんかいさ」という感じで。(笑)
僕のアイドルがSam Cookeだと言ったら、おたがいの実家が数ブロックしか離れていないことや、Samの弟、L.C Cookeとステディな仲だったことなどを、あのブルーズ声で話してくれました。

それから、Timというドラマーにはホントにやられちゃいました。
Stapleのバックでは必ずサポートしているミュージシャンです。
なんだか脱力して叩いてる感じで、右手などはフロアタムの上にのせてシンバルレガートなどしているのですが、出てくるビート、グルーヴが、桁違いに凄いのです。
ソロが回ってきても、シンプルな8ビートのパターンソロ。
それがどんどん盛り上がって来る。

「音楽はテクニックではない」ということを身をもって教えられました。

これはまたStaple一家のパパ、Popsにも。
カントリーブルーズのタッチで弾き語りをされるのですが、ひと声歌い出した瞬間からこれがもう、どうしようもなくサウンドしてる。
揺るぎない、という形容詞がぴったりで。

目からウロコの連続でした。

もうPopsもValerieも、鬼籍に入られています。
状況が許せばお墓参りに行きたいなと思っています。
僕にとっては恩人なので。

厳しい時代です。
少し寂しくもあります。

足を運んでお金を払って音楽を聞こう、楽しもう、という方が少ない事。
家にいてもさわりだけなら、ネットで新譜が聞けてしまう時代ですもん。

でも現場では、音だけでは推測できないことがあります、わかります。
面倒臭がらずにぜひLIVEに足を運んで下さい。
おなじ時間、おなじ場所を共有するよろこびを知って下さい。
かって知っていたぞ、という方にはもう一度。

これは僕に限らず、音楽を作る人間、すべての願いだと思います。

ご存知ですか?
音楽は自動的には生まれません。

作る人の思いが、そこには必ずあります。


ジュズツナギ
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三田 悟志
OUT LOOP-WAY
BLUES BAND
ダンカン 林
ベーシスト・シンガー
ゴトウゆうぞう
エンターティナー

第35回は、ゴトウゆうぞうさん。ユニット "ゴトウゆうぞう&ワニクマ・デロレン&マキ" を率いてユニークなギグを繰り広げるかたわら、レーベル "Red Inc" を主宰、個性的なミュージシャンたちのアルバムを精力的にリリース、京都を根城に活躍をつづけておられるパーカッショニスト・ヴォーカリスト・プロデューサーです。


DUNCAN 林
ベーシスト・シンガー。1959年京都生まれ。
ブラックミュージック・ラテンに根を持つ安定したプレイには定評がある。
古谷 充、東原 力哉、塩次 伸二、Jaye 公山、渡辺 大之伸、大西 ユカリなど、在関西のミュージシャンとの共演はもとより、 木村 充輝、有吉 須美人、甲本ヒロト、ブラザー・トム、Skoop on Somebody、またアリヨズシャッフル在籍中、故Valerie WelingtonやThe Staple Singersの来日公演サポートなど。

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