オトサタ連載


杉本キョウコ

(デジタル系エディター)

 第8回「PINKO PINKO」

(2003.10.27)

近所のレコード屋さんを通りかかると、いつもは「3枚1000円」のCD棚が「1枚100円」になっていた。なんだよ、それは…しょうがないなぁ。 ざっと棚を目で流すけれど、一枚も知っているようなタイトルが出てこない。知っていたと思ったら、ネタでも買わないなあという代物ばかり。さすが100円。

100円に敬意を表して、ジャケ買いあるいはタイトル買いで、1度聞いたらサヨウナラを覚悟でテキトウに買ってみることにする。100円ならではの出会いを追求すること3分、2枚のCDをピックアップしてレジに向かいました。

・BIG BROTHER:The Blank Years
 ※2枚ぐみで100曲入っている。1曲1円…?
・PINKO PINKO:FASHION IS YOUR ONLY CULTURE
 ※ジャケットなし。 PINKO PINKOという名前とタイトルにアンテナがビビ。

BIG BROTHER は「この人たち一緒に遊んだら楽しいんだろうなあ…」と思うけど、あまりにも完成度が低すぎて、聞いているのがつらくなって38曲目でリタイア、38円分。レコーディング時に「でさ、このリフがクールなのさ」「ブラザー!おまえってヤツは最高だ!」「さぁイッパイやるか?」とかやりとりしてたんじゃないかっていう雰囲気は感じるんですけど、そんなことを想像してニヤニヤできるのは3曲までってことです。(38曲目まで聞きましたが…)

さて、PINKO PINKOの方は、一曲目「Need Success Yeah Yeah」がたいへんよかったです。なんといっても 「イェイ イェイ」ですよ――いいに決まってます。一枚通してみると、後半にかけてタイクツになっていく感じは否めませんが、彼らが100円棚に存在したのは理由はジャケットがなかったからで、内容がつまらないからではなかったようです。これはなかなかアタリでした。

95年発売のこのアルバム、なんともいえず90年代テイストでせつなくポップで、頼りなく青春です。たとえば同じく95年発売のMathew Sweet「100% Fun」みたいに。その頃流行り始めたCardigansみたいに。

しかしPINKO PINKOって誰なんだろう? 「ピンコピンコ!」なんて叫ぶのはどうかと思うんだけど、やっぱりライブのときは興奮したオーディエンスが「PINKO!PINKOOOOOOH!!」って騒いだりしていたのかしら? 聴いたところ日本人ではないし、アメリカぽくもない。どこの国の人の感性が「PINKO PINKO」なのかしら…? 

疑問に胸を脹らませて、"PINKO PINKO" をウェブで検索してみると、泉ピン子氏に比べると(比べなくていいけど)、あまりにも情報は少ないようです。ちなみに興味を感じた人のためにオンラインCDショップを見たところ、このCDはアマゾンのユーズドで600円で売っているのしか見つけられませんでした(ほしい人は急いでください)。PINKO PINKOについては「ブリティッシュ音楽好きのスウェーデン青年」で、二枚のアルバムを発表したのち97年以降はオトサタがないという情報がありました。こちらのレビューを書かれた人も、やはり名前の音が気になって仕方がなかったようです。
LISTEN JAPAN―PINKO PINKO

なんだかそういうのも90年代の音楽らしい気がします。
何も残らない何も残さないで、甘いばっかり切ないばっかりでいようとして、そのくせこういう風にふっと強い感じがよみがえってくるような。そういうとこが、なんだか「青春時代の恋人」みたいだな。「わかりあえないことをわかりあう」とか「答えがないならそれでいいんだ」とか、そんなことばっかり言ってたような90年代。若者にとっての90年代って、そんなふうだったんじゃないかなと思っています。よくもわるくも、そういうのが私たちの季節だったと。

時代は2000年に変わって3年が過ぎました。
ミレニアムをもって時代が入れ替わったな、という感覚だけは確かだったのですが、2000年はいったいどんな季節になるんでしょうか? そうだなあ、きっと。「答え」とか「わかりあう」とか「意味」なんていうことが、まったくありえないベクトルへ向かっているんじゃないかなと思っています。



杉本 キョウコ

デジタル系エディター。1990年代の多くを京都(とくに同志社大学アーモスト寮)で過ごす。ネット系企業への転職と共に東京へ移住。

※おひさしぶりです。イトウさんのご厚意に甘えて復帰させていただきました。


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