オトサタ連載


杉本キョウコ

(デジタル系エディター)

 第 6 回「京都の音沙汰が」

いつごろからだろう?音楽を聴かなくなっていた。
ううん、毎日何かの音楽を聴いているけれど、 音の世界に自分を開くような聴きかたをしなくなっていた。 いつの間にか、音に体をあずけて聴くようなことがなくなり、 カラダの中を音楽が貫いて、音を出している人の、 音の中心から届いてくるグルーブを捉えて、 イメージをつかみとるように感覚を開いて、 どんどん自由になっていく…そんな音とのつきあいをしていなかった。

京都を離れたせい?たぶん答えはイエスでノーだ。
今の生活の中で、そんな風に際限なく感覚を開くようなことをしてしまったら、 きっとバランスが取れなくなってしまうんじゃないか。 そんな風にちょっと怖く思っていたのかもしれない。 そして同時に、引きこもってしまうことこそが バランスを崩してしまうことだとも知っていたかもしれない。 どんな風にしたら自由になれるのかわからない時期があり、その間に音を見失っていた。

いやなこともあるけど、いつかそんなときも過ぎる。
少しずつ、むかし聴いていたのと同じように音楽が いいと思えるようになり始めたのは去年の年末あたりからだろうか。 ずっと封印していた音楽を聴きはじめた。 山口富士夫、ジャニス・ジョプリン、ストーンズ、スライ&ザ・ファミリーストーン… それらの音が、かつて夢中になったのと同じくらいに、 私を夢中にさせてくれるのがわかったとき、私の中に音が帰ってきた。

今は、友達に会うと「今なにがいちばんいいの?」と聞く。その人が夢中になっている音を教えてもらって「これは」と思う音を探したりする。なんだろー、こんな感じすごくいいなぁーと思う。もう一度、音に出会えて本当にうれしい。
なんだか生々しく音を聴きたいなと思っていた矢先に、東京に騒音寺が来るという噂が届いた。なんと全力オナニーズも一緒に。

2月17日、渋谷ラ・ママに行って見ることにした。
私が編集している「GOZANSmagazine」の、オトサタコーナー「オトサタペーパー」にも登場してくれた騒音寺を、ROSE GARDENの紹介で出てくれていたしのやんを、改めてナマで見れるんだなあと思うとなんだかヘンな感じ。私は東京にいて、紙を作っていて、そこにインターネットを介してやってくる京都のオトサタ情報を載せている。私は京都にいなくて、そばに触れられていないことについて、自分の作る紙を通して知ったりする。とても京都は遠くなってしまっている、でもちゃんと京都のバイブレーションは私のところまでやってきてるみたいだ。

その日は騒音寺2ndCD発売記念ライブだったらしい。
全力オナニーズも、騒音寺も、渋谷にいることを忘れちゃうくらい京都のままで、ステージが磔磔や拾得みたいに見えてきてしまう。「地球のみなさんこんばんはー!」と始まり、もだえる三人のボーカルが宇宙的なパフォーマンスを見せる全力オナニーズ。そしてタイトな演奏に京都そのままな声がうねる騒音寺。うわーこんなの見れていいのかなぁー?と。こんなにいい音が聴けるなんて、今こんな風に音と出会えるなんて、よかったな。

また京都の音が東の方まで届いてくるのが楽しみ。みんなまた来てね。



杉本 キョウコ

デジタル系エディター。1990年代の多くを京都(とくに同志社大学アーモスト寮)で過ごす。昨年春、ネット系企業への転職と共に東京へ移住。
現在はライティングスペース社員として、タブロイドマガジン「GOZANSmagazine」制作に大わらわの日々。

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