オトサタ連載


杉本キョウコ

(デジタル系エディター)

 第 4 回「ありがとう。さよなら。またね。」

3月半ば、HMVに行ったら「ピチカート・ファイブ解散」と書かれたパネルの下 にCDが平積みされていた。またまたぁ、何かの冗談でしょう?と思ったのだが、 いろいろ見てたら本当らしい。ナニー!ついこないだ、渋谷のど真ん中で新作 の大きな看板出してたやん。3月末日にベストアルバムを出して、渋谷で解散 ライブをやって「ありがとう。さようなら。またね。」でオシマイだとー!

好きでよく聴いたけど、思い入れがあるというほどではない。なんというか仕 事をしているときなんかにいい気分で聴ける音楽だったり、朝目覚める時の音 楽にセットしておくと、寝起きの悪い私でもわりかしゴキゲンにベッドから出 ることができる音楽だったり。大切にして思いを入れあげる音楽、っていうも のではない。心の宝物箱にはもっと他の音楽を深くしまいこんである。でも、 なんとなくショックだった。すごく期待しているわけじゃないけど、期待を裏 切ることをしない人たち。それが私にとってのピチカートだった。それがなく なっちゃうっていうのは残念だな、と。

「解散ライブ見に行こうかなぁ」当日ちょっと迷ったけど行かなかった。 四月も半分以上過ぎてからふと立ち寄ったCD屋さんで、何気なく最後のベスト アルバムを買ってみた。家に帰ってきて、CDを聴き始めたら突然ピチカートの 解散が重たーい事実となって襲ってきた。この音楽がなくなっちゃうんだ…。 「それほど好きってわけじゃないけど」なんて言いつつつきあってたカワイイ 女の子にフラれてしまった男の子の気分ってこんなの?フラれちゃった後に、 「おれ、あの子のこと好きやったんやなぁー」ってせつなくなる、そういう気 持ちはきっとこんな感じだと思う。

思えば卒業して就職したてのころ、毎朝「大人になりましょう」を聴きながら 会社に向かい、毎晩「東京は夜の七時」を聴きながら家に帰る電車に乗ってい た。仕事中に音楽を聴くときも、聴きたいものがないときはいつもピチカート。 ああ。私はそれと知らずにいたけれど、ピチカートが好きだったのだ。 解散のニュースを知って一ヶ月も経ってから、私を襲ったショック。なんだか ちょっとオマヌケさんだ。「もうこの音楽は帰ってこないのだなあ」としめし めとした思いを噛みしめながら、今日も思わずピチカートを聴いてしまう。 いまさらピチカートは私の心の中の宝物の一つになってしまったらしい。



杉本 キョウコ

デジタル系エディター。1990年代の多くを京都(とくに同志社大学アーモスト寮)で過ごす。昨年春、ネット系企業への転職と共に東京へ移住。
現在はライティングスペース社員として、メールマガジンがもっと自由になるサイト「ゴザンス」http://www.gozans.comのスタッフとして奔走中。

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