オトサタ連載


杉本キョウコ

(デジタル系エディター)

 第 1 回「東京の桜と京都の桜」

京都の友人は東京へ引っ越すときに「上京する」とは言わないで「都落ちする」と言 う。首都圏で暮らして来た人にとっては、なんじゃそりゃ?京都と言ったってたかが 地方都市じゃないの?と思うだろうし、それがいわゆるふつうの感覚だと思う。京都 に根を張って暮らしたことのある人にとっては、べつに京都が中心だと思っているわ けじゃないけれど、一度土深く埋まった根っこを引き抜いて他の土地に出ていくこと は、平家の人々なんかがなつかしい都を泣く泣く出ていく気持ちになぞらえて不自然 じゃない気持ちを抱いて京都を離れるのだ。

私は二度京都を離れている。一度目は大学を卒業したとき、大学生活を過ごした寮を 離れ大阪の家へ一度戻ったとき。その後また京都に部屋を借りて戻り、二度目は昨年 仕事を見つけて東京へ「都落ち」したとき、そして現在に至る。大学入学とともに京 都に入ってから10年が過ぎ、はじめて京都の桜を見ないで春を迎えた。鴨川をふちど るように咲く桜は今頃どうなっているだろうか、暗闇の中に白く浮かび上がる円山公 園の大きなしだれ桜は今年もきれいに咲いているのかしら?と、そのころ居候してい た早稲田の友人宅の近所を細々と流れる神田川の桜や井の頭公園の桜を見に行ったも のだ。

そんな昨年の春、ひさしぶりにサニーディサービスの「東京」を引っぱり出して聞い ていた。ジャケットの「東京」の文字の後ろに桜が咲いているやつだ。大学で過ごし た一番最後の年、寮でよく聞いていたサニーディサービス。「これいいよ」って貸し てくれた友だちとこのCDを聞きながら過ごした時間は、私にとっていろんな人や、い ろんなものとの別れを予感させる時間だった。 当時よく喫茶店に通った。「このごろよく喫茶店でコーヒー飲んじゃうんだよねぇ」 とくだんの友だちに告白すると、彼も同じように喫茶店がよいをしていたことがわか って笑ってしまった。サニーディの歌詞に「喫茶店」や「コーヒー」がよく出てくる せいだ。そのあとふたりで喫茶店に行ったこともあったし、いい喫茶店を教えてもら ったり、一緒にコーヒーを入れて飲んだりした。なんだかはにかみたくなるような記 憶である。

詳しいことを知らないけれど、去年のうちにサニーディサービスは解散してしまった らしい。そのことには何の感想も持っていないけれど、サニーディサービスの音に関 するちょっとセンチメンタルな気持ちは十分私の気持ちをくすぐった。まぁ、二回の 京都とのお別れをなんとなくサニーディにつき合ってもらったような気持ちにならな くもない。そう言えば、東京に来てからゆっくり喫茶店を探して歩いたりしていない な。春になったら自転車で喫茶店探しにでかけよう。



杉本 キョウコ

デジタル系エディター。1990年代の多くを京都(とくに同志社大学アーモスト寮)で過ごす。昨年春、ネット系企業への転職と共に東京へ移住。
現在はライティングスペース社員として、メールマガジンがもっと自由になるサイト「ゴザンス」http://www.gozans.comのスタッフとして奔走中。

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