オトサタコラム
「偶然だな」〜京都で過ごした幸福な時間



曽谷コウヘイ
(みみずくず)

初めまして。「みみずくず」というバンドでギター弾いてるコウヘイと申します。いきなりでございますが京都らしさって何すか?俺は鴨川と空の広さしか浮かばんなぁ。それも居を東京に移してから自覚しただけの話で。基本的に頭良くないし、おまけに閉じた頑固野郎のくせに小心者という人間なんで、何もよくわからんのです。嗚呼、空が広くて気持ちいいなぁ。それだけで京都が好きなんです。そんなわたくしではございますが、京都に居たからこそ体験できた「音楽溢れる幸福な時間」という、いや思い出話なんですが、そんなものがございましてそれを今回ぜひお話したいと。非常に不器用な文章だとは思いますが、しばしの間御辛抱を。

わたくしは20過ぎから約3年間、とあるCDショップでアルバイトをしておりました。その期間中様々な素晴らしい音楽に出会えたことは、今でも私の貴重な財産となっているのですが、そのCDショップで2人のアルバイト仲間と出会い過ごした時間もまた今では不思議な体験であったと思われます。1人は金髪のパンク上がり。わたくしのアルバイト初日、初対面のあいさつもそこそこに「バンドとセックスどっちが気持ちいい?」なんて聞いてきいてきたぶっとんだ野郎。当時の彼のバンドのライブを見に行ったら、オープニングで「人生は素晴らしい、だけど人生はフェアじゃない」などと、真顔でマイク通して言ったりするナルチスト。他のショップの人達でごったがえす休憩室のソファーで、金髪の彼と長髪の僕がだるそうに座ってたら、誰も近づいてこなかったものでした。もう1人は、いつもニコニコマイペースなのに、口を開けば笑いのツボ突かれまくり。しかも毒舌ブラックジョーク。だけど憎めない。彼が仕事の合い間にいつも書いてたマンガは、ホント最高だった。

そんな、一般の人達とはズレまくりの2人でしたが、両人ともすごく音楽が大好きで、しかもとても詳しい。2人から本当にたくさんのいい音楽を教えてもらったものです。そして、本当によく遊びました。バイト中に(もう時効でしょ?)。客も少なく、社員さんも少ない閉店1時間前なんかは絶好の遊び時。よくやってた遊びが、誰が一番エロいジャケットを見つけてくるかという「エロジャケ探し」。その応用で「グロジャケ探し」。そして普通のしりとりなんだけど、その単語に合ったジャケも一緒に見せなければならない(例:バナナ=ヴェルベット・アンダーグラウンド&ニコ、ゴリラ=ニール・ヤングetc…)「ジャケしりとり」などなど。

本当におもしろかったし、本当によく笑った。この2人と過ごした約2年の間は、本当に働いていたんだろうかと今でも不思議な気持ちになる。こんなに楽しく音楽と接しながら、ジャケットで遊んで、その上お金まで稼いでいたこの奇妙な時間は、今でも誇りに思っているし、とても感謝している。そしてそれはもちろん、2人がいたから。本当に愉快で、最高の奴らだった、今ではそれぞれ別々の道を歩んでいるし、あの頃に戻りたいとは思わないけれど、そんな場所と時間を与えてくれた故郷・京都が、改めて愛おしいと思えました。…所詮すべて偶然なんだろうけれど。だけど、そんなもの。世の中すべて、そんなものですよね。そんなものなんです。偶然を愛していきましょう。

そんなわけで、偶然京都に生まれ、偶然バンドを組み、偶然今は東京で暮らしている、わたくしの独り言、思い出話でございました。暇つぶしにでもなったのならこれ幸い。最後までどうもありがとうございました。また「みみずくず」の方もよろしくお願いいたします。

それではまたどこかで。



曽谷 コウヘイ
京都市伏見区生まれのギタリスト。エフェクターよりアンプ直、メールより手紙というアナログな人。しかし機械には強い。1996年みみずくず結成。2000年メジャーデビュー。一筋縄ではいかない独特のサウンドは「どこか懐かしいけど聞いたことがない」と形容される。
みみずくずホームページ http://www.mimizukuzu.com

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