オトサタコラム
「京都音楽雑記」



長谷川 一志
(ラヴラヴスパーク)

京都に住むようになって、もう九年になるが、「京都の一枚」「京都な一枚」なんて、さあ困った。大阪、東京、パリ、ニューヨーク。そんな街なら、その街ならではの音をすぐ思い付く。ルナを聴いた時、まだ見ぬNYを思い浮かべた。そして、そのルナを聴きながらのNYの散歩は格別だった。東京の友達のバンドを観た時、やられた、スゲエ、と思ったけど、でもこれは東京じゃなきゃ出せねえ音だな、京都じゃ無理だ、と同時に思った。が、その京都。なぜかここ数年、京都の音、について聞かれる。わからない。大体が、音楽をしようと思って京都に来たわけじゃあない。もちろん、ずっと音は聴いてきたし、この街で音も出すようになった。が、最近になって、そういえばこのバンド、京都のバンドやったんよなあ、と気付く有り様。うむ、これはこれでひとつの特徴かもしれない。誰も京都だからって意識してない。決して住み心地のいい街とは言えないけど、居心地は悪くない。あんまし考えなくてもいいもんね。だから、大学を出ても(いつまでも居続け、結局卒業もしない人も少なからずいるけど)何となく京都にいる人が、何世代にもわたっているんでしょう。

他所者も地の人も、この街に愛憎はあるにしても、ことさら京都、と意識してやってない。そして絶妙な地理関係。大きすぎもせず、小さすぎもしない、絶妙な街の規模。すなわち、情報量が適度。多すぎる情報に混乱することもなく、かと言って少ないわけでもない。自分の都合で情報を取捨選択。解釈も勝手。もっと情報が欲しけりゃ、大阪に遊びに行けば手に入る。チャリンコで駅に乗り付け、電車に揺られりゃあ、一時間もすれば大阪だ。お代は五百円足らずなり。そうそう、町の規模とチャリンコ。30分も走りゃあ、端から端まで行ける。それがしんどけりゃバス。大体、駅前文化ってもんがないじゃない、京都って。どこの街に行っても、駅ごとに小さな文化圏があるもんだけど、京都にはないよね。これまたこの街の独特なところ。

ちょっと話がそれた。戻そう。まず適度な情報。惑わされることなく、自分の好きなように音ができる。で、変なことやってたり、一見時代遅れのことやってても、あんまやかましく言われない。さっき、すぐ大阪に行けると書いたけど、居心地いいから、京都だけで済ませちゃう人も多い。つまり、鎖国中の日本、火縄銃がいつの間にか美術工芸品になったように、独自の発達を遂げる人が多いです、京都は。初期衝動、最初の感動を昇華させた人もいれば、合いそうもないあれやこれやを、極めて自然に融合しちゃう人も。なんでこう変化するかなあ、でもいいなあ、なんて人も。ぼくのまわりの人で言えば、永江孝志君は、好きな音楽コツコツやってて、あんな途方もないアルバムを作ったし、トロピカル大臣ってバンドは、最初観た時、おっ!ニューウェーブっぽい、って思ってたら、本人曰く、実は十年以上も前から同じことやってるだけで、時代に取り残されたと思ってたら、今度は時代の方から追い付いてくれたみたいで、なんて言ってる。これじゃあホントのニューウェーブじゃん。ドリルマンのQちゃんなんかも、パンクス少年が気持ちいい音を追求してるうちに、いつの間にかスペイシーギターを弾いてて。機材もそんな詳しくないし、話を聞けば聞くほどびっくりする。

そんな、一途なんだかのんびり屋なんだかよくわかんない人達が、小さな街にいっぱいいる。小さな街だから、全然違うことやってても、どこかで噂を聞いたりして知り合って、そんな網がいくつもあって、それがさらに絡まって。大きな街だとそうはいかないんじゃないかなあ。ひとつのジャンルでコミュニティ作れるし。でも京都では、ジャンルなんて気にしてないし、気にしてらんない。小さいし。掛け持ちも多いし、移動も多い。あの村八だって、歴代メンバー、一体何人いるんだよ。みんな、なんか身軽。このへんを一言でいうと「ゆるい」。あと、今、京都の音が注目されてるけど、みんな外に出るようになったからだと思う。じゃなきゃあ、誰かが「発見」するか。今みんなにイイって言われてる人でも、見向きもされなかったり、なんだかなあ、って言われてる時代もあって。すげえいいな、なんて人がいたとしても、その人自体はやってること変わってなかったりする。もっと早く気付けよなあ。マイペースと言うか、一途と言うか、頑固と言うか。

以上、とりとめもなく、僕の京都音楽雑記。ああ、もうスペースがない。「京都の一枚」としては、ホントは大宅稔トリオをあげたいんだけど、CDRで一部で出回ってるのみ。なので、代わりに「発見」の一枚「オクノ修」。で「京都な一枚」は、「一途」で、でも「のんびり」な、五つの赤い風船の「New Sky」「Flight」。この二枚はペアなので不可分ね。外国ものでいえば、ペイヴメントのゆるさは京都っぽいなあ、と思います。



オクノ修
「オクノ修」

5つの赤い風船
「New Sky」

5つの赤い風船
「Flight」
この原稿は「京都の1枚京都な1枚」として書いてもらったものですが
どっちかというと…ということで「オトサタコラム」に掲載しました。


長谷川 一志
京都大学入学後、文学部中庭ライブなどの音楽イベントを開催。4年から吉田寮食堂ライブ実行委員会の中心となってライブを運営している。自らの足で探した良質で個性豊かな出演バンドと、吉田寮食堂が持つ独特の空気があいまって京都ならではの魅力あふれるイベントとして話題になる。自身のバンド「ラヴラヴスパーク」は現在6期目。ソロの弾き語りスタイルになっている。
いろんなところで見まくったライブについて書きまくっている掲示板「好き好きラヴラヴスパーク」は必見。

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