オトサタコラム
「平成のエロ事師たち」


葛城 淳司
(中村コーエン兄弟)

「兄さん、兄いさーん、あんた幸運やわ」驚いて見せて
「わいと会えたのが何かの縁や、おもろいもん見したるよってわいと遊んでかん」 ズブやん京都の町を歩き流す。
 京都は盆地やさかい盆地の底の方に溜まった人の熱気やオート四輪の排ガスで、どうにもたまらん、ケツまくる。
 ズブやん平成のエロ事師として生まれて以来、一志を貫いて今此処に在る、曰く、 「大体、人間生きる楽しみいうたら、食うこととあれや。そのあっちの方があかんようなってみい、どんな大会社の社長やいうて威張ったかて、生きてる甲斐性あれへんわ。よう薬屋でホルモン剤やら精力剤やら売ってるやろ。いうたらわいの商売それと同じや。わいら慈善事業しよる、なんも悪い事してへん。他の人ピンコピンコさしてなにが悪いねん。戦争で人ぎょうさん殺して勲章もろとる方がどおにかしとる」終始この調子。
 そこでズブやん、さっきのカモをいてかます。「京都のコはどない。みんな憧れの京都や、しおらしゅーて奥床しゅーて五人組なんやどな、なんか、なんとも言えん危なげな、一回体験したら中毒になりそな、京大西部講堂で演りよったコらなんやけど。知らんか」
 兄さん、首をかしげ……ズブやんモノを出す。 「”ライブ村八分(GOODLOV008)”やんか知らんか、ア痛!!知らんか、山口の富士夫ちゃんの弾きっぱなしのギター、それに乗っかる柴田チャー坊和志のひらがな歌詞や、ひらがな表現の巧さわかる。曲目なんか”あっ!!”とか”んっ!!”とかで一曲、わかる」
 まだ兄さん怪訝そうな顔でズブやんを見ている、それでもズブやん捲くし立てる、負けて堪る…
「あんな兄さん、そら奴らは演奏は下手や、幕間の間では大きい口たたきよる。仕舞いには曲数が少ないのか同じ曲アンコールでしよる、そやけどな、そやけどここ兄ちゃん聴いてや、それがスピリッティちゃうの!!なあなあーて、ローリングストーンズかてLP二枚目まで殆どカバーや!!LP一枚キッチリ一二曲やし、こんなヤル気のないバンド知らん。しかし、そこがスピリッティ間違ってたらゴメンナサイ!!」
 兄さん呆れた様子でスタスタと速歩きになった、そこでズブやん…
「待ってえ、待ってくれ、びっくりしなあ急に速うなんねんもん。わかった、わかった、他いこ。兄ちゃんゲイジン好きか。わかった皆まで言うな、皆まで。パツキン・アンド・チチドンドン、それにピンコピンコ、わかっとるわかっとる」
 ズブやん今度は二枚取り出し ”MOONDOG(PRESTIGE P-7042)”と”THE RESIDENTS/MEET THE RESIDENTS(ESD80222)”を見せドヤッと余裕の表情してさらす。
「ドヤッ、わいわかっとるやろ、兄さんのほしいモンお見通しや。まずは一枚目、ムーンドック。表紙絵の”大黒さん”みたいなんがそれなんやけどケッタイ。ケッタイて、何がケッタイてえポコント、ポコント、ポコポコポコって盤全体がこんな感じ。これ実はタップ踏んどる音なんやけど実にケッタイなあ音で、自分いま温泉つかってるうてこんな感じ。日本語の語りなんかムーンドックの日本人の妻はん使とるしホワット スマイリン アバウトって、まあこんな感じ。これが五十年代録音いうにゃから驚き。偉いねプレステージは奇跡やね、これ聴いて巨匠オーネット・コールマンも会いに行く行く、会う会う、ズベズベのパッパラパラパラー……」
 兄さんヤッパリこのオッサン頭おかしい相手出来ん、こんなオッサンに関わってた自分が悪いし、端から見てる他人に格好悪い。
 早行こ、おいとましよ、サイナラ時間の無駄とズブやん思わせぬ先に、 「二枚目レジデンツ!!まあちょあっと隙間のある音づかい、何の脈絡のない音が狂ったかの様に響けばダラーと何の脈絡のない音の羅列いいねえ。故桂枝雀大師匠が言ってられたが笑いは緩急である、いいねえ、真理やねえ、人間感情を共にしやすい言うのは緩急なんちゃうの兄さんわかる。そんでこれら二枚のウェット感わいは京都感じよるし、何でもアリなテクノ感じない。そう頭の先までピーコピコのテクノよピコピコピコピコ、ピーコピコ、石野卓球ピーコピコ、テイトウワもピーコピコ、マジカルパワーマコ、パツキンパツキン、チチドンドン、チチドンドン、ピンコピンコピンコピンコ、ピーコピコ、チチドンドン、ピーコピコ、兄ちゃんゲイジン好きか。ピンコピンコ、アヘアへヘ……」
 兄さん恐ろしゅなって逃げ出す、なおもズブやん意気衝天して消沈す、情痴男が昇天し、逝く、亡く、永眠す。ピンコピンコ、チーン。

参考文献:
「エロ事師たち」 野坂昭如著
ロック画報 05
「壊色」 町田康著



村八分
「村八分ライブ」

MOONDOG
「MOONDOG」

THE RESIDENTS
「MEET THE RESIDENTS」
この原稿は「京都の1枚京都な1枚」として書いてもらったものですが
どっちかというと…ということで「オトサタコラム」に掲載しました。


葛城 淳司
中村コーエン兄弟というミニコミをやっています。伊藤さんの御好意で書かしてもらいました。ありがとうございます。これからもシコシコと文を書いていきますので応援、ヨロシコ。
2002年7月19日 葛城淳司 nakamura-park-br@hotmail.com

★ページトップに戻る

★オトサタINDEX

★HOME