京都の1枚 京都な1枚



吉本秀純
(トーキンロック編集室)

・「京都の1枚」・・・・



COMPOSTELA【歩く人】


コンポステラは、今は亡きJAGATARAのサックス奏者・篠田昌巳率いるチンドン・ジャズの名グループ。どこが京都やねんっつうセレクトだが、この『歩く人』には91年10月に京大・西部講堂で行われたライブ音源が収録されているんです。しかもバックには、はちみつぱいや70年代の細野晴臣の傑作群での名演で知られるスティール・ギター奏者・駒沢裕城が参加なんつうと、JAGATARAなんかどうでもいいサニーデイな若者たちも聴きたくなってきた? 
篠田らによる、フリージャズに突入する寸前で踏みとどまり、ローランド・カークばりの泣きと人情に満ちた激プレイも聴きものだが、駒沢先生の、スティールギターというよりも胡弓やのこぎりヴァイオリン、いや“うた”に近い神懸かりなプレイは、最近の“音響派耳”でこそ聴き直すべき極上の心地よさ。91年といえば、ボアダムスやら少年ナイフがスポットを浴び、関西のインディーズが今よりももっとヤバかった頃。この音源には、あの当時の京都の“オルタナティブ”な空気までもが記録されてる気がしてならんのです。


・ 「京都な1枚」・・・・



HEINER GOEBBELS
【THE MAN IN THE ELEVATOR】


これまた京都とは関係なさそうですが、まあ話を聞いて下さい。
僕はこのCDに京都の烏丸四条を南西へ、新町仏光寺をちょこっと西へ入ったところにある「パララックス・レコード」というお店で出会いましたが、僕にとっての“京都系”とはこのお店の存在にほかならないのです。
アシッド・ジャズにもハマり切れず、かといって轟音変拍子オルタナも飽きて、ヤバいニューウェイヴや70年代のプログレ〜ジャズロックに足を踏み入れつつ、もっと“聴いたことのない音”に飢えていた94〜95年頃、レコメンもトータスらの音響派もディス・ヒートもヨーロッパの変なテクノも良質の現代音楽も全部このお店に教えてもらった気がします。京都に行く機会が少なくなった今も“なんかオモロい音ないかなあ”とレコ買いで迷った時はパララックスに行きます。
このアルバムは、その中でも基本アイテムとして広くご推薦できる一枚。ドイツ語の朗読が続く中を、アート・リンゼイが例のぐにょぐにょギターを弾きながらおセンチなボサノバを歌い、ドン・チェリーが神秘的なラッパを吹き、チャールズ・ヘイワードが強靱なリズムを刻み、ドイツの現代音楽家ハイナー・ゲッベルズが心地よい電子音トリートメントを加えるという、真に無国籍で「パララ」なお皿であります




吉本秀純
邦楽ロック雑誌『トーキンロック』編集者。
同志社大学在籍時に、あのドラヒップを世に輩出したのを筆頭に、エゴ・ラッピン、ちぇるしい、デタミネーションズ、JESUS FEVERのメンバーが在籍していた弱小軽音サークル「LOVE AND FREE」で飲んだくれたり、卓をいじったりしつつ、並行して、京都の老舗フリーペーパー「カイトランド」の音楽ページ編集に携わり、卒業後「エルマガジン」に拾われ、すったもんだの果てに現在に至る。

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