京都の1枚 京都な1枚



井口啓子
(ライター・Super!)

・「京都の1枚」・・・・



フォーク・クルセダーズ【紀元貳千年】


 かつて私の通っていた中学校(京都では有名なボンボン私立)の同級生に端田くんとい う男のコがいた。彼の父親がその昔、一世を風靡したミュージシャンだったことは兼ねて からの噂で、そのことは生徒会長をやっていた彼のモテにも秘かに貢献していたのだが、 卒業の謝恩パーティーの時についにその本人が登場し、おもむろにギターでマイナンバー を熱唱して以降、端田くん人気がガタ落ちしたのは正直言ってやむなし、な出来事でした。
 そんなこんなで、私がここ数年前までフォークルを喰わず嫌いでいたのは、まったく 不幸だったとしか云いようがない。
 と、つい本人を逆恨みをしたくなるほどカッコイイ、69年の傑作1st。「日本のビート ルズと真に呼べるのはフォークルだけだ」ってな帯のコピーは、決してハッタリではない。
 膨大なアイデアを細部にまで散りばめたカラフルな音の洪水が、叙情的なメロディと絡 み合いながら、ラストまでイッキに駆け抜けるハチャメチャなリスニング感は、まさしく 『サージェントペパーズ〜』というか。当時としてはかなり驚異のプロダクションワーク も、計算して…というよりは、なんか「ノリノリだからです!」って突っ切っちゃうよう な、大胆な感性の閃きが前面に感じられるのがイイ。
  69年といえば、日本ではGSが終焉を迎え、関西の学生を中心にニューロックへの動向 がジワジワと高まっていた時期。そんなピリピリした世情を横目に、「オラは死んじまっ ただ〜」なんつってあくまでユーモラスな造作で、ロックの不穏分子を全国のお茶の間に 撒き散らした彼らは、あまりにラジカルだ。だってそもそも、フォークル自体が、解散す るハズが人気が出たため一年だけ再結成したバンドだったと云うから(しかも、バカ売れ したのに予定通りアッサリ解散!)、これはもう完全に社会をナメてますね。
 評論家の松山晋也さんは以前、フォークルの歴史的功績(あるいは単純な凄さ)を「過 激なアマチュアリズム」という言葉で端的に説明されていたが、これは以降のいくつかの 京都のバンドにも無意識に受け継がれている気がする。
 先の『帰ってきたヨッパライ』に顕著な、どこまでギャグなんだかマジなんだかてんでつかみ所のない、ヒネくれたポップさ(略してヒップ!)やブッ飛んだ言語センスは、今思うと完全にローザ・ルクセンブルグだし。くるり岸田さんの音楽や発言に垣間見れるヤ バイほどの「京男」っぽさは、何となく加藤和彦を彷彿させなくもないのだ。  「プロ」の音楽家には逆立ちしても作れない、若い才気とセンスの塊みたいな一枚。ロ ーファイも音響派も通過した今(『紀元貳千年』!)だからこそ、聴こえてくる音も決して少なくない。


・ 「京都な1枚」・・・・



the Rest Of Life【Home Made Hell】


 「レスト・オブ・ライフ=余生」というバンド名だけで、もはや説明不要って感じ?
 ずっと昔に一度終わっちゃってて、完全に死ぬことも生まれ変わることもなく、毎年膨大な数の観光客や学生が訪れては去るが、そこにいる人やモノはいい意味でも悪い意味で も変わらず、宙ぶらりんで在り続ける街「京都」。そんな「永遠の途中の街」の甘美でノ スタルジックな麻薬的空気に、そこはかとなく似合うB.G.M.がこれ。
 メンバーは各々プロフィールを聞けば、仰天&納得の強者4人。いずれも東京出身の東 京のバンドだが、東京という街が今や「標準語文化」の植民地であることを思うと、彼ら はさしずめ帰る都を失った没落貴族ってところで(?)。その音楽の喚起する彼岸のイメ ージはまさしく「京都的」だ。(もっといえば、アメリカン・ミュージック的ですらある)。
 波のようにドッと寄せては退く、泡まじりのギターのフィードバックノイズに打たれ、 その中に身を漂わせていると、頭の中がどんどん漂白され真っ白になってゆくようなカタ ルシスに包まれる。そして鴨川か、はたまた三途の川さながら、ゆっくりと流れる音の切 れ間に、凛と響きわたる福音のような歌声…。
 サウンド的にはまあ、ジミ・ヘン×スラップ・ハッピーだとか、女性vo.版・裸のラリー ズだとか、シド・バレッドとマーラーと安藤昇の天国と地獄めぐりだとか…。もっともそ うな説明も出来なくはないけど。何よりまず、今リアルタイムでこんな音楽が聴けるこ とを、私はただただレストの4人に感謝したい気持ちでいっぱいなのです。




井口啓子
 音楽・映画・書評などムセッソーにやっているライター。主な寄稿は『groovy book review』(ブルース・インター・アクションズ)、『マンガの鬼アックス』(青林工藝舎)、『SAVVY(書評)』(京阪神エルマガジン社)など。「Super! 」の名前では、ミニコミの編集・発行やイベント企画。また女のみちをペン(と肉体?)を武器に探求するチーママとしての活動も。京都在中、どなたか仕事下さい。superpop@mbox.kyoto-inet.or.jp

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